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実山椒に付き合う

日本アサーション協会

2024年7月1日 八巻甲一


実山椒をご存知のことと思う。5月になれば道の駅などに地元産としてパック詰めにして並ぶこともある緑色をした小粒の実である。山椒独特の香りとピリッとした辛味が魅力で好みにしている方も多い。スーパーでは「チリメンジャコの佃煮(山椒の実入り)」として店頭に並ぶ。山椒の実は控えめに混じっているだけだが、食するとその辛みで存在感を発揮する。 その山椒の実を採ろうと裏の雑木林を目指して家を出た。チリメンジャコの佃煮では山椒の実はその存在を主張していてもあくまで脇役だ。私はこの主役と脇役を入れ替えた「山椒の実の佃煮(チリメンジャコ入り)」を作ってみようと思い立ったのである。




その日は昨夜来の雨は上がったが、山椒の葉には雨が残って濡れているので朝の陽に反射したりして瑞々しい。3メート近くある木なので葉の下を潜るようにして実に近づくのだが、露となって落ちて来る水滴を避けなければならない。枝をぐっと手繰り寄せてハサミで小枝から切り離すのだが、その時、バサッと顔に落ちてきたりする。露の冷たさに「やられた!」と思わずつぶやく。


実の成りは昨年より少なそうだが主役にするには十分だ。私は小枝に房のように連なる実を見つけてニンマリしては採取し始めた。小粒だがそれぞれの枝に10粒前後の実をつけている。偶に20粒くらい実をつけた房を見つけるとうれしくなったりする。ザルに溜まる実山椒に達成感を味わいながら続けていると「アッチ!」。 トゲに刺された。山椒の木は多くの柑橘類と同じように枝にはいたるところにトゲが生えている。警戒して慎重に手繰り寄せてるつもりだがちょっと油断するとトゲにやられる。腕や首、脇など何回も刺された。葉から落ちる露程度にひるんでいては笑われるくらいトゲは痛いのだ。「なにくそ!」などと意味のない一人わめき言でわが心を鼓舞する。


ところで柑橘類にあるトゲは何のためにあるのか興味本位でCopilot(生成AI)に尋ねてみた。「実を鳥や動物など害獣から守るために生えている」ともっともな回答。なるほど、実を成らせる柑橘類にとっては実が成熟するまで守る必要があるのだ。ならば山椒の木にとって私は実を奪い取る「害獣」だ。トゲで刺されるのは山椒の木の抵抗だ。実山椒の収穫は山椒の木との戦いということだ(ちょっと大げさか)。山椒の木で生計を立てている農家はこの戦いを毎年繰り返すのだろうか。ミカンも柑橘類だ。その収穫の大変さをこんなところで感じたりする。


 実山椒は小さい(直径5ミリにも満たない)し鈴なりに成るわけでもない。それでも苦闘小一時間もすれば小さなザルにそこそこ溜まった。となれば、持ち帰って下ごしらえの準備だ。まず、ザッと水洗いして(というほど汚れている訳ではないが)、塩を一つかみ入れた熱湯に3分くぐらし多めの水に浸けること30分。昨年はここで失敗した。浸けていた時間をうっかりしていて1時間以上にしてしまった。水につける時間が長いと特徴あるあの辛みが薄れてしまうのである。私は辛いのが好みだ。水からザルに挙げた実を房のようになっている小枝から一つ一つばらす。この作業に意外と時間を取られる。梅のヘタを取るのも手が掛かるが、あれは粒が大きいので成果がわかりやすい。それに比して実山椒はなかなか捗らないように感じる。大体、珍味などというものは食するまで手間がかかるものだ。そして手間をかけた分味わいも増すというものだ。そんな独り言をつぶやきながら小粒外しを続けた。


 山椒の木は北海道でも生育するというから日本全国に生えてるようだ。だが、山椒の木の寿命は意外と短く人の人生より短いというし、虫にやられてしまうことも珍しくないらしい。我が裏山のあの山椒の木はあと何年実を成らしてくれるだろうか。来年も苦闘の愉しみを期待しつつ料理に取り掛かった。

 

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