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「共にあること」辻村徳治

更新日:2023年4月7日

                        

  今から15年ほど前のおそらく春先のころ,自宅から車で30分くらいの場所にある兵庫県立甲山森林公園で,私は愛用の双眼鏡を持って週末の早朝に散歩をしていた。公園の入口にある管理事務所を過ぎて,「緑橋」を渡ったあたりで,メジロやシジュウカラ,ヤマガラなどが一団となって移動していた。このような集団で移動する姿は,何度も見たことあった。「朝食」をもとめて木から木へと,仲良く移動していた。しかし,この日はもともと警戒心の強い小鳥たちがどういう風の吹き回しか,私のすぐ傍に来てくれて,彼らの鳴き声や羽音が私の耳元に響いた。小鳥たちの集団のすぐ下に私がいることで,羽音と共に温かな空気にふんわりと包まれたような感じになった。彼らが私を害のないものとして認めて,仲間に入れてくれたのだ。当時の印象は,大げさに言うと,まさしくこの地球という星の下,同じ空間で「共に生きる」という感じである。そのとき,私を迎え入れてくれた小鳥たちの「いのち」に愛おしさを感じるとともに,「共にある」という一瞬を実感させてくれたことへの感謝という幸せな温かい「波動」を交換したのかもしれない。


 その当時は,毎年12月に沖縄の修道院で開催されていたラボラトリー・トレーニング(グループ・アプローチ研修)にスタッフとして招いてもらっていた。そこでは,常に「共にあること」がテーマであった。永年このような人間関係トレーニングを実践してきた中堀仁四郎さんのテーマでもあった。単なる言葉ではなく,中堀さんとの日常的な人間関係で,「共にあること」を深い意味合いとして感覚的に理解できていたように思う。それを敢えて言葉にすれば,「温かく親密で,率直にありのままにある」ということである。ただ残念なことに,中堀さんから与えれていた感覚がまさしく「共にあること」だとは,当時の私には意識化できていなかった。大切なことを実践しないといけないと,時間があれば「共にあること」をお題目のように唱えていた。その頃は,日常生活でも「共にあること」が自分のテーマになっており,たまたまバードウォッチングをしているときに,小鳥たちとの間で実現したものではないかと思っている。


 この「共にあること」と,アサーション・トレーニングで一番重要なことである「自他尊重」の精神というのは,相通じることだと考えている。それぞれの人間としての尊厳を尊重して,その関係性や主体性を大切にするということが前提になっている。それは,一方がそう思っているだけでは実現できない。小鳥たちが私の存在を認めて,接近してくれなければあのような感覚が得られなかったように双方向的なものである。また,一方がそのように思っていなければ,お互いがそのように思えることはない。大変難しいことである。


  世の中には,いろんな人がいて,それぞれの思惑で生きているというのが現実である。「共にある」ことや「自他尊重」という価値観が受け入れてもらえないということは十分にあり得る。しかし,こちらからそのような思いを伝えようとしないと通じることはない。またそのような思いを伝え続けることが重要であると思っている。そのようなことを,15年前の小鳥たちは私に「ごほうび」と共に伝えてくれたのかなと思っている。ちなみに,同様の体験は残念ながら出来ていない。

辻村徳治(2021.10.4 )

  

ヤマガラ

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